カフカの猿

皆様はシアターX(カイ)という劇場をご存知だろうか。

 

ひょんなご縁で20年ぶりくらいに訪れたこの両国の小さな劇場に、私は一気に惹き込まれた。

 

まず息苦しくない程度の絶妙な狭さが良い。華美でないのが良い。自然と色が深まっていく木製ならではのこげ茶の空間が良い。紅色の椅子に身を沈めると、そこに座っていられる優越感のようなものに包まれる。

 

舞台上には木が擦れた沢山の疵痕がある。それを無理に隠すのではなく、わざとらしく見せるのでもなく、よく掃除を行き届かせて丁寧に大切に使っているのが見れば判る。管理者達の愛情や姿勢が「見れば判る」というのは、なかなかなことではないだろうか。

 

今更だが、この場所を再認識できてとてもラッキーだった。私は生の舞台にお金を使うことを厭わないタイプだが、それでも「1階は最後列まで全てSS席で12000円です」なんて文句が当然のように書かれているのを見ると、眉をひそめる程度の金銭感覚は持ち合わせている。

そんな中、ここシアターXでは、なんと自主企画公演を全て1000円で観せるのだ。高校生に至っては500円。大人でも2回目以降は500円で観せるなんてものもあるらしい。

 

安いから素人チックな劇団を呼んでいるのかというととんでもない。正直どうやって採算を合わせているのかサッパリだが、しかし1000円なら客としては冒険ができる。レンタル屋でジャケ借りする感覚で生の舞台に手を出せるのだ。素晴らしい。私はシアターXの理念に惚れた。ここが企画するものだから観てみようという気にもさせる。

 

 

そんなわけで冒険してみた『カフカの猿』。

 

 

 

 

70分全編英語劇で字幕は無し。

カフカである以上言葉の比重は重いのだろうが、それでも敢えて、言葉なんて相互理解のための一つの手段にすぎないと言い切ってみたい。だって私はサイレント映画で爆笑と号泣ができるのだから。

 

 

結果としては冒険は成功。ただそれでもというかなんというかやっぱりちーと悔しかったのは、猿が舞台を降りて握手をしに来てくれたのに、言葉が理解できない私は貼り付けた笑顔でそれに応じるしかできなかったこと。

 

「やっぱ言葉かー?;」と思う瞬間だ。確かに一番始めに挨拶に向かうなら、最前列ど真ん中に陣取っている客の所に行くだろう。日本語さえままならない島国根性丸出しの日本人が座っていて申し訳な~いっ;;それでも充分、今の私なりの心で受け取ったものがあるから、それで良しとしてほしい。

 

ともあれ、この年で良い遊び場を発見した。嬉しい。うほほ🐵うほほ♪

 

 

by さぁチュン