語らせない背中

私が初めてその画家の存在を知ったのは、忘れもしない―2008年でした。

小学校で臨時の職に就いていた頃、校長室の前の壁に、そのポスターは貼ってあったのです。

《ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情》

それは、息が詰まるほどの静けさを讃えた絵でした。

 

 

暫し仕事中だということも忘れ、茫然と廊下に立ち尽くしてそのポスターを凝視していたのを覚えています。

そしてハッとして、その足で真後ろの校長室の扉を叩いていました。

あの行動力は、今から思ってもなかなかでした。

会期終了後で構わないのでポスターを譲って頂けないか頼み込む私に、校長先生は面食らったようにしながら、「こういうの好きなの?」と笑って下さいました。

当然すぐに美術館へも行きましたが、その時頂いたポスターは、今も自室の一番良い場所に飾られています。

 

そんな、一瞬で虜になったデンマーク画家、ハンマースホイ。その後なかなか美術展も開かれず、観たい観たいと思っていたのですが遂に2020年!それは訪れました。

上野を歩いていた時、偶然広告を見た時の衝撃といったら!

 

 

そのようなわけで、今回は数名を引き連れて行ってきました。

 

この画家の絵から感じる個人的見解は、神経質・独占欲・閉塞感・侘しさ・孤高・美しさ・見えない息遣い・愛?etc…

 

人のいない室内や、部屋の中で過ごす(過ごさせる)妻の背中を描くことの多い画家、ハンマースホイ。

ガランとした空間には、1時間前まで複数の人が動き回っていたような、熱が冷めたばかりの温度が閉じ込められているような…。

はたまた画面には映り込んでいないだけで、カンバスの後ろにはまだ残っている人がじっと人のいなくなった空間を見つめ、物思いに耽っているような…。

 

 

人物を描いたと思えば妻の背中ばかりで、しかも一様に喪服のような色合いのものばかり…。

日本には「背中で語る」という言葉がありますが、この妻の背中からは“何も語らせないぞ”という夫の重い想いがひしひしと伝わってくるようで、「じゃーなんで描いたっ(@□@💧?!」と冷や汗が出てくるというか。

実際に妻をあまり外出させなかったという話しもありますが、この方はこの生活をどのように受け止めていたのか…と、見えそで見えない顔の表情を覗き込んでしまう、そんな絵ばかりです。

 

極限の静けさは、氷の大地の上に立たされた時のような強い衝撃を受ける―そんな作風の画家、ヴィルヘルム・ハンマースホイ。

薄曇りの多い白夜の国、デンマークが生むに相応しいような人です。

 

※ところで今回プチ衝撃だったのは、「ハンマースホイ」が「ハマスホイ」表記になっていたこと!

当時、呼びにくい故に一発で覚えた名前だったのにっ(´Д`💧時代の流れを感じますが、私の中ではいつまでもハンマースホイです(苦笑)

 

by さぁチュン