パルナッスム博士

僕が小学生の頃ですからたいそう昔の事になりますが、パルナッスム博士に逢った

のです。冬休みの朝でやっと明るくなってきたじぶんで、僕は自転車に乗って新聞を

配達してたんです。田んぼや畑がひろがっている農道を行くと白鷺たちがやけに

騒いでいて群がっています。どうしたんだろいつも静かなのにと自転車を止めて

よく見ると、白い太いひもを身体中にぐるぐる巻きにした人が真ん中に立っていました。

「おはようございます、どうしましたか」すると「白鷺たちに連れてこられたのだ、ここは

ぜんたいどこなのだね。」 篠崎村といいます 「そうか、だいぶ東にずれたようだ、

私の名はパルナッスム博士という世界一周をしている者だが、君、ちょっと手伝って

くれないか。」そういうと博士はポケットからいっぱいの色とりどりのゴム風船を出して

「さあ、ふくらませておくれ、」 すごいのです、一息でその風船はパンパンになるのです。

ふくらんだ風船を博士は大きな袋につめていきます、あっという間に飛行船が空に

立ち上りました。「この船はゴリウォーク号というわたしの発明品のひとつだ。君が

望むなら乗せてやっても良いが十年間は戻ってこれまい、どうするかね。」

僕はその時、母や兄のことを考えました、それにまだ新聞を待っている家もある。

「残念です、いけません。でも博士にはまた会いたいです、さよならです。」

ゴリウォーク号はゆっくりと飛び立って、博士は僕に手を振ってくれました。白鷺たちも

いっせいに飛び立ちました。

僕はこの話をいままで誰にも話しませんでした。パルナッスム博士には、いつかどこかで

逢えそうな気がします。

by ひいチュン